広島の旅 7
広島の旅最終日。
以前からずっと島にあこがれがあり、島の本を読んだり行ける範囲で横須賀の猿島を訪れたりしてきたけれどまさか自分が本格的な島へ行ける日が来るとは思っていなくて、今回思いがけず初日も2日目も島へ行けたことでちょっと自信が付き、最終日も思い切ってまた違ったタイプの島を訪れてみようと思った。
観光地ではない、生活の場としての島。
ただ、以前厳しい環境の島に興味本位で踏み込むよそ者に対して良い感情を抱かない島民もいるような話を本で読んでそれはそうだよなと思ったことが印象に残っていてためらいがあった。
似島について少し検索してみると散策目的で訪れた人のブログや島の散策用ガイドマップなども存在していたのでそこまで排他的ではないのかなと、思い切ってみた。
広島滞在中あまり乗る機会のなかった路面電車で広島港宇品旅客ターミナルへ。
本当に以前から島に対するあこがれだけはあるので乗るあてもないのに竹芝桟橋へ行って船をながめたりターミナルから船に乗る人をうらやましく思ったりしていたので、この場に緊張もしていたし興奮もした。
ちょっと早く着きすぎてしまいふらっと外に出ると正面にこれから向かう似島が見えた。
山の形が美しい。
島にはコンビニがないという情報があったので、売店で菓子パンとプリッツを買った。
プリッツは日常で買うことはまずないんだけどなぜか旅先で買ってしまいがちな旅おやつだ。
乗船時間になり乗り場へ向かった。
自転車で乗り込む人などもおり、やはりみな日常だ。
何目的だかわからない私は浮いている。
通常20分ほどで到着するところ、別の港にも寄る便だったため40分ほどかかった。
私は船がめずらしいから時間はかかればかかるほどたくさん乗れていいなと思った。
似島港に到着。
船を下り、私には出迎えがあるわけでもなかったけれど、島の猫は歓迎してくれたみたいで良かった。
島の外周が約10キロとのことで一周歩いてみようか迷っていたけどなんとなく島の内部へ続く道へ足が延びてしまったのでそのまま進んだ。
住宅や商店などがあり、普通の田舎と特に変わらない。
神社があったので寄ってみた。
境内から海が見えた。
島の反対側へ抜ける道はちょっとした山越えのようだった。
地図には「通学路」と書かれていて、島の子どもたちは大変だな。
ひと気のない墓地や山道が続きちょっと怖かった。
だいぶ登ってきたな。
やっと視界が開けたところ。
坂を下り、島の反対側に出てきた。
小学校や中学校のある島の文教地区(?)
似島は原爆投下の時被爆者が運び込まれたとのことで、中学校のとなりに慰霊碑が建てられていた。
現在はとても静かな場所だった。
また少し坂を上り、遠くに海が見えてくる、こういう風景が好きだ。
昔教科書に「あの坂をのぼれば」という話が載っていて、当時海のそばに住んでいたわけでもないし自分には何の思い入れもないはずなのに「あの坂をのぼれば、海が見える」というフレーズだけいつまでも覚えていて、こういう場所で思い出す。
しばらく海沿いの道を歩いた。
時々車が通るくらいであとは見渡す限りまったく誰もいない。
寂しいと思うことはなくて、こんな贅沢があっていいのかなと幸福感に浸ってしまうのは普段ぎゅうぎゅうに電車に詰め込まれたり人とぶつからないとすれ違えないほど狭い職場で働いているせいなのだろうか。
空間全部ひとりじめで、本当にただただ海と自分だけ。
ひとつぽつんと浮いている島ではないので、どこを見ても別の島や山が目に入る。
いつか絶海の孤島みたいなところへも行ってみたいと思う。行けないだろうとは思うけど、もしかしたら行けるかもしれない。
別荘がいくつか並んでいるエリアの入り江がとても良かった。
何枚撮っても伝わる写真にはならなかったのが残念だけど、少し高い場所から見下ろしたその場所は隠されたようにひっそりしていて「これは秘密の入り江だ!」と心の中で命名した。
車道をそれて、ガイドマップに載っていた歩行者用のトンネルへ行ってみた。
照明は入り口で自分でつけて、出口で消すスタイル。
めちゃくちゃ怖い。
中年のおばさんなのにこんな冒険みたいなことしていいのかと思った。
トンネルを抜けるとそこもまた海だ。
大きな船も見える。
島を半周して港まで戻るとなぜか猫天国になっていた。
まだ帰りの船まで時間があるけどあと半周する時間と体力はないし、どうしようかなあと港の見える遊歩道みたいなところに腰かけて菓子パンを食べていたら、遠く桟橋の方にいる猫と目が合ったような気がした。
そこからテッテッテっとなんか勢いよく走り出したのでなんだなんだと思っていたらあっという間に私のところまでやってきて何かニャーニャー言い出した。
菓子パンが食べたかったんだろうか...猫に菓子パンを与えてよいかわからず途方に暮れていたら、猫は「もういい」とでもいうようにスッと歩いて島の中学生3人組の方へ行ってしまい、そこで思う存分かわいがられていた。
船が来たので帰る。
歩けなかった北側の半周は車両通行不可とのことで、船から見るとなかなかの道のようだった。
せめて関西圏に住んでいるなら、残りの半周は次回歩こう、と言えるのだけれど…。
少し早めに広島駅へ戻り、ゆっくりお土産などながめてから新幹線に乗った。
駅弁売り場では広島のアナゴのお弁当が名物のようだったけど、おかしな時間に菓子パンを食べてしまいあまりおなかがすいていなかったのでアナゴのおにぎりを買った。
広島の旅は初日のどうしようもないテンションの低さから一転とても楽しい旅だった。
特にひとりで船に乗って島に行けたことが大きかったと思う。
やりたいけどできないと思っていたことができるのはうれしい。
広島での心残りもたくさんあるけどいつか取り戻しに行けるだろうか。
おわり