旅の話2
旅の2日目。
この日は計画的に旅する人に怒られてしまいそうな一日だった。
今回の旅、どうしても行きたい場所が思いつかず、今はそうでもないけど以前行きたいと思った場所を訪れることにしていた。
そのひとつが、余呉湖。
琵琶湖の北にあって、電車の車窓からちらっと見えるのだけど、昨年初めて見た時は息をのむような驚きがあった。
誰にも気付かれずひっそりと山に抱かれて眠っているようなたたずまい。(実際は電車から見えるのだけど)
その時は時間的に立ち寄ることができなくて、いつか見に行けたらいいなとは思ったけれど、旅行のメインに設定するような場所ではないし位置的にどこかの観光のついでという感じでもないし、二度と見ることはないかもしれない...と思っていた。
旅のやる気が出なかったために訪れることができるとは、皮肉なものですね。
精神が擦り切れているせいか前回のような息をのむ驚きみたいなものはなかったけど、やはり駅からちらっと見えた余呉湖は美しかった。
駅から歩いて湖に向かった。朝早い時間からとても暑かった。
とにかく静かなイメージの湖だ。水音や生き物の音はするけど、時間が止まっているような感覚。
冬はワカサギ釣りが行われるようで、冬場の方が賑わうのかもしれない。
いつまでもその場にいたいような光景だったけど、朝早い時間にも関わらずとにかく暑かった。レンタサイクルで湖の周りを一周することも考えたけどかなり厳しい暑さで、名残惜しかったけど、できたらもう少し快適な気候の時に訪れたいと思いながら湖を後にした。
そんな機会はあるのでしょうか。
昨年の夏と同じルートだけど、昨年は敦賀から石川、新潟と旅していて、今回は福井で海を見るつもりだった。
これが、行きたいと思った場所のふたつめ。
昨年末に放送していた「鬼畜」というドラマで、玉木宏演じる父親が子供を手にかけるわりとひどい場面で映る海がとても美しく印象に残っていた。
ドラマのクレジットに敦賀市と美浜町とあり、いつかあの海が見たいなと思っていたのだった。
そのころどんなドラマや映画を見ても海の美しさばかり目についてたんだよな、リングとかも見返していたんだけど、伊豆の海のことばかり考えていた。
敦賀までは順調にたどり着いたのだけど、ここが無計画旅の落とし穴、西に向かう小浜線が2時間近くないという事態…
敦賀は昨年も訪れているので駅から行ける気比神宮や金ヶ崎城跡はもう見てしまった、何より外をぶらぶらするには暑すぎる、駅の待合室でまったく興味もない高校野球を見ながら時間をつぶすしかないのか...私は途方に暮れた。
駅の電光掲示板を見ると、これも少し待たなければいけないけど、小浜線よりは早く大阪方面行きの電車があった。
関西方面行きもちらっとは考えていたことだった。ただ、滋賀から福井に出て、そこから関西方面に戻るなんてあまりにも無駄な動きすぎる...けど誰に迷惑をかけるでもないひとり旅で無駄な動きをするのが悪いとか滞在数時間しかないのに京都に行くなんておかしいとか誰が気にするんだ? そんなのは自分の思い込みだ。
いろいろ考えた結果、じっとしているのが一番しんどいな、ということで京都行きを決めた。
私は京都に行ったことがなかった。正確には山科駅で駅から5メートルくらい外に出たことはあったんだけど。
修学旅行などで京都に行く機会がなかったことに加え、昔から日本史や古文が好きだった私は思い入れが強すぎてもう下手に京都に行くことができなくなっていた。
行きたい場所がありすぎるし、入念な下調べもなしに気軽に訪れることはできない。次第に自分の中で京都はもう古文や日本史に出てくる架空の場所として、そっとしておいた方がいいのではないかとまで思うようになっていた。
このタイミングで訪れることができたのは、これもまたやる気のなさの賜物だった。
今や古文にも日本史にも関心が持てない。以前大好きだったものに情熱がわかない。
近所の人ならともかく京都への旅行にガイドブックやマップをまったく見ずに出かける人がいるだろうか。しかも初めての京都で。
もうわりと投げやりだった。この時点でこの日はもうどうでもよくなってたところがある。
湖西線から見える琵琶湖はとても美しかったのに、反対側の座席に座っていたこともあり、 私はほとんど寝て過ごしていた。
そして、ついに初めての京都へ…
つづく